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【意志ある学び-未来教育メールマガジン】
第749号/2025年5月2日発行[転送可]
発行者:シンクタンク未来教育ビジョン
未来教育ライブラリ( https://www.suzuki-toshie.net )
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こんにちは、鈴木敏恵です。
今回は、「プロジェクト学習(PBL)」や「探究学習」「プロジェクト型学習」について、あらためて言葉の意味から考えてみたいと思います。
プロジェクト学習(PBL)と探究学習の違い
何かを考えるとき「言葉」をよりどころにします。その言葉は何を意味するのか見ながら、考える起点にします。
どんな言葉でも大切に、自分の頭でその言葉の意味を考えて使いたいと思うからです。
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探究学習=PBL(Project Based Learning)
というような表記を見るたび、ちょっとモヤモヤを感じます。探究とプロジェクト、その意味するものを考えると、むしろ真逆では?と頭の中で感じるからです。
また「プロジェクト型学習」と表記されたものを見るときも、多くの人にとってはそれはわかりやすいよね、と思いながらも‥私の胸の中に軽く抵抗を感じます。
それはなぜか‥?もあらためて考えてみたいと思います。
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〇 「探究」の意味
・物事の真相や意義・本質・原因などをさぐって、明らかにしようとすること。
(出典:岩波書店『広辞苑 第七版』)
・物事の真相や本質などを深くさぐり求めること。
(出典:三省堂『大辞林 第四版』)
・深くさぐりきわめること。
(出典:小学館『日本国語大辞典 第二版』)
※補足:語の構成
・「探」…さがす、調べる(表面的な意味)
・「究」…きわめる、深く追求する(より本質的な意味)
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〇 「探究」の典型的な使い方・文例
・真理の探究
哲学者たちは古くから真理の探究に人生を捧げてきた。
→「真理」とは何かを深く追い求める営み。学問的・哲学的文脈での代表例。
・人間の本質の探究
文学とは、ある意味で人間の本質を探究する営みである。
→ 心や存在に迫る深い思索の意図が込められている。
・科学的探究
子どもたちが科学的な探究心を育むには、観察と実験が欠かせない。
→ 科学的思考を通じて、仕組みや原因を深く明らかにしようとする姿勢。
・芸術における表現の探究
彼の作品は、常に新しい表現の可能性を探究している。
→ 芸術分野でも、新しい境地や表現の本質を求める際に使われる。
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このことからも、「探究」は「本質を深く突き詰めていく姿勢」や、物事を深く知ろう理解しようとする気持ちや態度、内発的で継続的なものと捉えることができそうです。「探究心」という使い方からもわかるように、「探究」は自らの内にあり継続的で、そこには「ここまで」という到達点(ゴール)はなく、むしろ求め続けるものと言えるでしょう。
プロジェクトには「ビジョンとゴール」が存在する
一方「プロジェクト」には、必ず目標(ゴール)の存在があります。

プロジェクトは構想や計画。
「建設プロジェクト」であれ、「火星移住プロジェクト」「心臓移植プロジェクト」であれ、プロジェクトには必ず「ビジョン・ミッション・ゴール」の存在があり、そこには必ずなんらかの”成果”があります。

「プロジェクト」は、この現実にカタチあるものとして社会や他者にとって”実物”として見たり、実感できる「アウトカム」が存在します。その進行においてももちろん自分だけということはなく他者の協力や共有が前提です。
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〇 「プロジェクト」の意味
“project”は「pro(前へ)」+「iacere(投げる)」この語源から、「何かを成し遂げるために、未来へ向けて意図的に仕掛ける行動」というニュアンスが根底にあります。
「未来へ向かって投げ出された(投影・ビジョン:前方へありありと描いた)構想・計画」という意味を持ちます。
ビジョン(目的)やゴール(目標)の存在がない「構想・計画」はありません。
「何のために(目的)!何をやり遂げたいのか(具体的な目標)!」
これはプロジェクトを貫く理念でもあり、核心とも言えるものです。
建築や国のプロジェクトを実際に責任者として経験してきた私にとって、プロジェクトとは決意を持って「成す」ものです。
いいえ、そう力んでいう必要もありません。一言で言えば‥プロジェクトとは夢の実現、ビジョンを現実にすることです。
プロジェクト学習をスタートするとき、学生たちに私は「プロジェクト学習を経験するとあなたの夢を実現する力が身につくよ!」とにっこり断言します。
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・「探究」と「プロジェクト」むしろ真逆では?
「プロジェクト」の出だしやその途中のどこかに”探究”的要素はありますが、探究だけしていたら「いつになったらはじめるんだ!!」とボスに怒鳴られます、クライアントに見放されます。
「プロジェクト」は大変です、大変ですがそれ以上にプロジェクトチームのメンバーと一緒にその成果や完成を見ることができたときの喜び、高揚感、やりがい、もしかしたらみんなで世の中の役に立つものを生み上げたかも!と泣きたくなるような感動をもらえる‥それが私にとってのプロジェクトの解釈であり、理解です。
これが「探究」と「プロジェクト」は全然違う、むしろ真逆では?と私が感じる由縁です。
「プロジェクト学習」か「プロジェクト型学習」か
私はあえて、シンプルに「プロジェクト学習」という表現を選びます。
理由は、「型」という言葉がもつ、型通り・型に嵌めるというニュアンスに、この創造的な学びを当てはめることへの抵抗感があるからです。
たしかに「PBL:Project Based Learning」は、文字通り“プロジェクトを基盤とした学び”ですが、この“Based”は「型」ではなく、「基盤」や「プラットフォーム」として捉えるのが自然です。基盤は、何かを固定するものではなく、むしろこれまでの型にこだわることなく自由に築き、進行し、挑戦していくことを支える土台です。
つまり、「プロジェクト型」であること自体に価値があるのではなく、「プロジェクトとは何か」その普遍的なところを深く理解すること、そして未来を描き、それを現実にカタチにする力強い「プロジェクトマインド」を育てることこそが、その本質です。
「プロジェクト学習」は、スキルでも方法論でもありません。
それは、“ビジョンを現実にする”という意志ある行動を学び、再現可能な力として現実に立ち向かい自らのものにしていく実践です。
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ここまでのところが楽しくゴックンと理解いただける動画です。
ゴールデンウィーク中にご視聴どうぞ!
【教育大学YouTube】プロジェクト学習 × ビジョン
未来教育オンライン連続講座
https://www.youtube.com/watch?v=zF-DySjfacY&list=PLMBtxivqF_D7ZCxY8I88pPPdT7gvxW_01
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[参考]2024年10月27日の未来教育MM
「探究学習とプロジェクト学習(PBL)の違い」
https://suzuki-toshie.net/news/5397/