AI×Vibe教育(1)「バイブコーディング」とは?──AIと人間の感覚的創造
すずきとしえ 鈴木敏恵 Suzuki Toshie の草稿の一部
(バイブ・コーディングと未来教育)
AI×Vibe教育(1)「バイブコーディング」とは?
──AIと人間の感覚的創造
◆リード文
AI時代の到来によって、学び方や創造の仕方に大きな変化が生まれています。そのひとつが「バイブ・コーディング(Vibe Coding)」という新しい考え方です。まだ正式な学術用語ではありませんが、人間の感覚に近づいたAI時代の学びの姿を象徴する言葉として、とても示唆に富んでいます。今回はその意味と背景、そして未来教育との関わりについて考えてみましょう。
◆「仕様」から「雰囲気」へ
これまでのプログラミングは、論理を積み上げる直線的な作業でした。仕様を決め、設計図を描き、コードを書き、テストする。この順序を踏まなければ作品は完成しませんでした。
ところが「バイブ・コーディング」では最初からその順序に縛られません。最初に大切にするのは、緻密な仕様ではなく「こんな雰囲気で」「こういう感じのものを作りたい」という感覚(vibe)です。人間の直感やイメージをそのままAIに伝え、AIが提示するコードを試しながら改良していく。この反復の中で、曖昧なイメージが少しずつ具体化し、やがて作品として立ち上がっていきます。
これは従来の「論理の積み上げ」型の学びではなく、まるでアーティストがキャンバスに向かうような創造の仕方に近いといえるでしょう。
◆AIが可能にした“感覚的な創造”
こうしたスタイルが現実になったのは、生成AIの登場によって「自然言語でコードを提案できる」ようになったからです。つまり、これまでは必須だった専門的な手続きや知識を飛び越えて、「人間の感覚」を直接創造に生かすことができるようになったのです。
AIは論理に強い存在ですが、同時に人間の感覚に寄り添うように成長してきました。ChatGPT-5のように「構造や立体を理解できる」モデルの進化もその一例です。言葉を線的に積み上げるだけでなく、空間的・全体的に捉える力を持つようになってきた。その変化は、まるで人間の感覚の進化とシンクロしているかのように見えます。
「バイブ・コーディング」という言葉は、このAIと人間の関係の変化を象徴するものなのです。
◆未来教育にとっての意味
教育に置き換えて考えてみましょう。従来の教育は「基礎から積み上げる」ことを大切にしてきました。それは確かに一定の意味を持ちますが、学びの一番の原動力──ワクワク感やビジョンへの憧れ──を後回しにしてしまう傾向がありました。
バイブ・コーディング的な発想は、この欠点を突き破ります。最初に全体像や雰囲気を提示し、そこから部分を埋めていく。未完成や失敗を恐れず、試行錯誤しながら近づいていく。このプロセスこそ、未来教育が目指している「意志ある学び」の姿です。
学びは積み木のように積み上げるだけではありません。むしろ、最初に「こんな世界をつくりたい」と全体を描き、そのビジョンに引き寄せられるように人は学んでいくのです。
◆結び──新しい学びの象徴として
バイブ・コーディングはまだ広く定義された言葉ではありません。しかしその本質は、AIが人間に近づくことで可能になった「感覚的な創造」であり、「全体像から始まる学び」です。
これは単にプログラミングの一手法ではなく、AI時代の教育全体を照らす新しいメタファーです。次回は、この「バイブ・コーディング的学び」と従来の教育方法との違い、そしてなぜ「全体を見ること」が人間の学びにとって本質的に大切なのかを掘り下げていきます。
[参考]
「バイブ・コーディング(Vibe Coding)」とは、正式な専門用語というよりも最近注目されている表現で、特に生成AIを使った新しいプログラミングのスタイルを指すことが多いです。
従来の「コーディング」は仕様を決めて、アルゴリズムを設計し、コードを手で書いていくプロセスでした。
一方で「バイブ・コーディング」は、
-
AIと対話しながら
仕様や実装を細かく詰めるのではなく、「こんな雰囲気で作りたい」「こういう感じのアプリ」という**感覚(バイブ、vibe)**を伝える。 -
即時的に試す
AIが生成したコードを動かし、出てきた結果を見ながら「もう少しこう」「ここを明るい感じに」と修正していく。 -
完成度より体験重視
最初から正確に仕上げるというより、短時間でプロトタイプを形にし、**“雰囲気を共有する”**ことを重視する。
つまり、
🔹「AIと一緒にライブ感覚でコードを作っていく」
🔹「厳密な仕様書ではなく“バイブ(雰囲気や感覚)”を起点にする」
という特徴を持つスタイルです。
これは、デザイナーや教育者、エンジニア以外の人でも直感的にアプリやシステムを試作できる方法として注目されています。