2023年12月08日

新聞:『教員志望』が高まった・北海道教育大学教職論PBL  プロジェクト学習

新聞2023年12月6日

PBLで教員志望意欲が向上 「AI時代の学び」イメージがわいた (未来教育全国大会2023より)

2023年12月6日

教員不足が深刻だ。教員志望の学生の確保と質の向上が喫緊の課題の中、10月21・22日に開催された「意志ある学び-未来教育全国大会2023オンライン」の初日、北海道教育大学は、大学1年生の教職論PBL(Project Based Learning)を行ったことで教員志望意欲が向上した事例を報告した。主催はシンクタンク未来教育ビジョン(鈴木敏恵代表・未来教育クリエイター・一級建築士)。PBLやポートフォリオに関心を寄せる全国の教育関係者210人の申し込みがあった。なおPBLに役立つ資料は「未来教育ライブラリ」と検索するとDLできる(https://suzuki-toshie.net)。

北海道教育大学では今年度より、3キャンパス(札幌・旭川・釧路)でPBLを採り入れたところ、60%以上の学生が「教職を目指す意識が高まった」と回答。「イメージが広がり未来への期待が高まった」「自分のしたい教育活動が明確になった」「正解のない学びに取り組むことは楽しい」「対話により学びが深まることを理解できた。対話は楽しい」と前向きな感想が多く届いたという。同大学の永山昌史教授と山中謙司准教授が成果や学生の受講の様子について報告した。

授業観が転換学生が成長した
北海道教育大学 永山昌史教授

調査によると、本学の教員就職率は65%。これを75%にまで引き上げたいと考えており、課題を設定して探究するという基本的な思考の枠組を身に付ける科目を設置した。さらにPBLは全員がスタート期に行うことが大事と考え、1年次「教職論」全15コマのうち2コマをPBLの共通講義とし、専門家の鈴木敏恵氏に教職論PBL特別講師を依頼。3キャンパスで同内容を行うためオンデマンド講義とした。その結果、学生の「教員を目指す意識」や「すべきことを自ら考え出せる力」が向上。学生同士で対話を通して自分の好きなことを意識化し、授業イメージを拡げる様子が目の前で繰り広げられた。

■オンデマンド講義でもアクティブラーニング

「自分の好きなこと」を核に、それを活かす授業を考え出すという明確な目的があるからこそ、学生同士の対話が真剣になり、互いへの有効なアドバイスを生き生きと行うことにつながったと感じている。学生は自分で情報を得たり活動したりすることの意味を理解でき、ビジョン=授業イメージの描き方を体感したようだ。

モデル対話でイメージがわく
北海道教育大学 山中謙司准教授

旭川校の学生と鈴木氏とのモデル対話を視聴することで学生は、生徒の言動の意図をくみ取ってアドバイスを行う必要があることや、イレギュラーなことに対する柔軟性の重要性を理解できたようだ。自分の好きなことについて、対話を通して考えることが大きな刺激になり、それが、自分には伝えたいことがある、だから教員になりたいという意識に変わっていく様子に感動した。

理科では昔から問題解決学習に取り組んでいるが、多くが予定調和に基づいたもの。今回のPBL体験は、予定調和ではない問題解決という授業観の転換につながった。

北海道教育大学「教職論PBL」2回で何をしたか
「教職論PBL」特別講師 鈴木敏恵

オンデマンド講義「学生のビジョン力と課題解決力を引き出す対話シーン」の一場面より

オンデマンド講義「学生のビジョン力と課題解決力を引き出す対話シーン」の一場面より

○4月(教職論スタート時)=「PBLとは何か」「ビジョンシート」の説明と「教職論PBL」全体を把握(5分程度の動画)

○PBL1回目(7月上旬)【前半】PBLを進める上で重要な学習者との「対話」のポイントをモデル対話を通して伝える。「ビジョンシート」に「自分が何が好きで関心があるのか」「その好きなことを活かしてどんな教育活動をしたいか」「その教育活動で子供に身に付く力」を記入。【後半】ワークショップでは互いのシートを見て対話。良いところを発見し合う。相手のモチベーションが上がる『価値発見』と相手のビジョン実現に役に立つアイデアや情報を伝える『知の提供』がアクティブな対話の鍵。口頭で伝えた後はカードに記入して渡す(ポジティブフィードバック)。

○PBL2回目(7月下旬)=【前半】PBLの基本フェーズで身につく力(下表参照)を説明。さまざまな事例やPBLを実践した教員(小中~大学)のインタビューも紹介。【後半】ビジョンを実現するために有効な知識や学びを、互いに協力しながら大学シラバスから検索するなどして「学びデザインシート」に記入。最後に学生の気づきや未来志向を高めるメッセージを伝える。

 

PBL が「意志ある学び」を導く
シンクタンク未来教育ビジョン代表 鈴木敏恵

■PBLは課題解決学習とイコールではない

北海道教育大学のPBLでは、2回かつオンデマンドでも躍動的なワークショップにするために様々な工夫を凝らしました。多くの学生が、わくわくするような授業イメージを持ち、教職への意欲が高まったことに喜びを感じています。

未来をより良くするという思い=ビジョンこそが「意志ある学び」を実現します。PBLは、AI時代を生きる子供たちに必要とされる力が身に付くものです。これは課題解決学習とイコールではありません。そして与えられた課題に取り組むものでもありません。

■PBLはビジョンを実現する学び

PBLの核心は、1人ひとりがこうなりたいなという未来を描くことから始めることにあります。わくわくするような未来∥ビジョンを実現するためにプロジェクトが生まれ、それを達成するために生じる課題解決のためにどんな学びが必要なのか、何を知る必要があるのかを考え、実現に向かうことです。

■1人1台端末を新たな価値創造に役立てる

1人1台環境になった今、ゴールに向かうプロセスをデジタルポートフォリオとして一元化することが容易になりました。考えを可視化することは新たな価値創造や多様な人々との出会いに活かした自分の学びのデザインに役立ちます。これがAI時代の教育の姿といえます。どんどん活用して下さい。

■AI時代の教育とは

プロジェクトを進めるためには、学習者の潜在的な力を顕在化する対話が必要です。対話は、共感しながら価値化を促し、考えを深め、知を紡ぎ、新しい価値を生み出すもの。これは人間だからできることです。

そのような対話を行うのが同じ現実を生きている教員です。AI時代が到来しても人間の教員にしか果たせない役割です。

ビジョンシートなどを基に対話を通して、価値を具体的に発見してあげること、何か自分に役立てることがないかを考え、伝えること。正解のないプロジェクト学習において試行錯誤こそが大事です。人は、「他者に役立つかもしれない」と考えたり行動したりする時、主体性やモチベーションが高まるのです。だから、PBLではビジョンを大切にしています。看護師を目指す学生がPBL成果をプレゼン
国際ティビィシィ小山看護専門学校

当日は、PBLを採り入れている国際ティビィシィ小山看護専門学校(栃木県)の学生が成果を披露。ChatGPTによる対話と現実社会でのフィールドワークを通して、自分のビジョンを実現するための「学びのデザイン」をプレゼンした。

学生たちのプレゼンに、山中准教授は「自分の専門性を前向きに捉えて夢を持ちながら学ぶ姿は教員養成大学にとっても参考になる」とコメントした。

全国組織の医療機関の樋口看護室長は「素晴らしい。学生のうちからフィールドワークで視点を拡げている。スーパーナースになりそう。期待が高まった」、鈴木氏は「迷ったり悩んだりしたときに今日の自分のプレゼンを見てほしい。そのためにもポートフォリオは重要」と語った。

youtube

社会見学もオンラインでPBL
埼玉県立常盤高等学校

PBLに長年取り組んでいる埼玉県立常盤高等学校は、150人の高校生が島根県の西川病院とオンラインで社会見学を行ったPBLについて報告。PBLではGoogleClassroomやYouTubeを使って反転学習を行った。

同校には看護科がある。社会見学で生徒は「看護師のほか栄養士や薬剤師など病院に所属する様々な専門家の視点を知ることで、看護について多面的に考える機会になった」と報告した。