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【鈴木敏恵の未来教育インフォメーション】
第705号/2022年5月29日発行[転送可]
発行者:シンクタンク未来教育ビジョン
鈴木敏恵( https://www.suzuki-toshie.net )
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DXで[教育のアーキテクチャー]がかわる
DXとは、デジタル化されることで物事が根本的に変わること。
世界中にDX(Digital Transformation)の波は押し寄せ、企業、行政、医療機関など分野や領域を問わず、私たちの慣れ親しんだ社会の姿や生活のあり方を今も変えつつあります。
もちろん教育現場、学校教育や研修なども然りです。同時に新型コロナの影響はGIGAスクール構想の背を押し、1人1台とWi-Fi環境の整備を早めることを果たしました。
古い革袋に新しい酒?
「長方形の教室、黒板の前に立つ先生へ一斉に子どもたちが向かい座っていた学校が変わる!長く続いた教育の姿が過去のものになる」と新刊の原稿を書きつつ、国のサイトでこの写真を見たとき、ウッとなりました、見た目、変わってない‥。
一斉授業で先生が指示した範囲でのPC活用?「個別最適な学び」は各自の画面の中だけ?
‥‥古い皮袋のまま新しいワインを入れてる?と感じる写真でした。
私学やモデル校を含め進んでいる学校はたくさんありますので、たまたまこの写真が古いイメージのものだったのかもしません。しかしいずれにしても一般的な公立学校が変わらないと多くの子どもたち、若者たちの今と未来へのチャンスになりませんので、学校のしなやかな未来化がどんどん進めばいいなと願っています。
アーキテクチャーとは「設計思想」「構造」
DXは、デジタル化による変革。それは単にこれまでの授業や講義をオンライン化することでも1人1台が実現することでも教科書がデジタル化することでもありません、それらは新しい教育へ移行する“手段”に過ぎません。
アーキテクチャーそのものを変える覚悟
DXとは、デジタル化することでこれまで当たり前と思っていたことが根本的に変革すること。
それはアーキテクチャーそのものに直結します。
アーキテクチャーとは、建築の世界で言えば、設計・構造。
コンピュータの世界では、システム全体の設計思想や構造などを意味します。
それがあってはじめて建築物が成立すると言えるほど重要なものです。
設計思想はコンセプトや理念と捉えることができます。構造・構築は、組み合わせからなり全体を成り立たせているもの。
何のためにオンライン化するのか?そこにはコンセプトや理念が必要ですし、全体の中でどう成り立たせるのかを考えることも必要でしょう。
DXの設計思想(コンセプト)
・「意志ある学び」を果たせるための情報化(1人1台・Wi-Fi環境整備)
・「新しい価値創造」を果たせるオンライン授業の実現
このようなコンセプトで向かうDXであれば、「個別最適化の学び」というキーワードの捉え方も違う風景が見えてきます。
個別最適な学び-“最適”を決めるのは自分自身
いつでもどこでも誰でもを可能とした1人1台、Wi-Fi環境の整備が進んだにもかかわらず、なぜ教室で一斉に行わなければならないのか?
「〇〇までに〇〇が出来るようになる」と言う目標さえ明確であれば、自らの最適環境で学ぶこともありでしょう。
「自らのパフォーマンスが高まる環境を学習者自ら決める」このことが1人1台、Wi-Fi環境の整備が進んだ今、もっと広がってもいいのではないでしょうか?学校においても、自分はここで学ぶと言う空間や場所を学習者自身が選択できるようにする。
学習は教室の中で先生の指導の元に行うもの‥と言うこれまでのあたりまえを捨て、学習者が自分で居心地のいい場所を見出すと言うこともあり得るでしょう。
そこがベンチであれ、屋上であれ、藤棚の下であれ、デジタル空間で学びを展開することができるのですから。
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新型コロナを機に本格的にリモートワークを定着させている企業。ある社員は、離島へ移りそこからリモートで参加するという働き方を決めました。自らの意思で自分のパフォーマンスが高まる環境を自ら選択した生き方です。社会全体のDXがさらに進めば、このような動きはこれからさらに広がるでしょう。
そこで一つのヒントとなるのが「ABW」という考え方です。
※「ABW」は新しい働き方や伴うオフィス設計などで使われる用語です。
ABWとは、Activity Based Workingの頭文字。一人ひとりが仕事内容に応じて働く場所や時間を自由に選ぶ働き方のこと。 固定席を設けず、仕事の内容によって使用する空間やデスクを選ぶといったスタイルを可能とする、オフィス設計の視点。」
学校ではどうでしょうか?
「ここが最適!」を決めることがもっとしなやかに許されてもいいのではないでしょうか?
『もっともパフォーマンスが上がる、自分にとっての個別最適な学びが叶う環境を--自ら決めることができる力』は、彼らが新しい未来の社会を創造する時にも役立つでしょう。
個別最適な学び-“最適”を決めるのは誰?
一斉授業から個別最適な学びへ「個別最適な学び」今最も使われている教育改革の言葉です。
画面の中のオンライン教材の速度、インターフェースの種類、文字や音声の大きさ、コンテンツの選択、学習進度など学習者自ら決めることができる、またAIが判断して最適な学びができる‥このようなことはすでに始まっていますが、もう一つ番った視点で
「個別最適な学び」を考えてみたいと思います。
どんな手段で学習する?もう一つの個別最適化
これまでは黒板とチョーク、教科書、書籍、ノートしかなかった学びの手段ですが、現在は、オンライン学習、YouTube、遠隔学習、現地のライブカメラの映像、またAI教材、SNS、あるいは直接現地へ行き、そこで人々へインタビューしてみるなど多様な手段で学ぶことができます。
必要な‥自分の「学びをデザイン」できる教育
学習者自身が、その学習全体の目的を確認し、どんな手段で学ぶことが有効か考える‥多様化する学習者や人生100年の時代を考えれば在学中から、自分の学びやそのための手段をいろいろ考え‥これは動画で、これはデジタル教科書で、このことはオンラインで‥など多様な学びの手段から自分にあった学び方を選んだり、効果的な組み合わせを考え行動する。
学習の手段を自らが考え、自分の学びをデザインできる力を身につける-これも教育DXへ向かい学校のアーキテクチャーを新しいものにする一つと言えるでしょう。
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週末にどうぞ!
★前川喜平(元文部科学事務次官)さんとの対話
【YouTube】『何のために学ぶのか?-学びは プライスレス』
https://youtu.be/mZ289L_KiQo
おすすめ書籍『AI時代の教育と評価・ポートフォリオ・プロジェクト学習』
https://www.amazon.co.jp/dp/4316804359/
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参考:文部科学省HP「個別最適な学び」について
※個別最適な学び(「個に応じた指導」(指導の個別化と学習の個性化)を学習者の視点から整理した概念)
https://www.mext.go.jp/content/20210126-mxt_syoto02-000012321_1-4.pdf
※(略)ICTを最大限活用し、これまで以上に「個別最適な学び」と「協働的な学び」を(略)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/senseiouen/mext_01317.html